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相続人がいないマンションの管理費

高齢者の単身世帯が増加しています。マンションにおける高齢者の単身世帯数についての正確なデータが存在しませんが、世帯主が70歳以上の住戸が20%、50歳以上が70%を占める現状から、今後多くのマンション住戸が相続の対象となってくることが、容易に想像されます。

 

かつては、親が子に残す財産で最も価値の高いもののひとつが自宅でした。不動産は財産としての価値が高く、相続人が「住む」こともできれば、人に、「貸す」こともできます。

 

最後には、「売る」ことで現金にも換えられるということで、相続人の間ではこの親の残した自宅の相続をめぐって醜い「争続」問題が生じていたこともありました。

 

しかし、最近はやや状況が異なります。都心居住が主流となる中、親の自宅を相続しても、自身で「住む」つもりはない。賃貸に出しても、築年数が経過したマンションでは住宅設備は古く、部屋の内装も時代遅れでなかなか借手がつかない。

 

かなりのお金をかけてリニューアルしても、立地に劣るマンションでは満足な賃料で貸せるケースは少なくなっています。

 

親の残した自宅の不動産価値が、それほどでもないことに気付いた相続人たちは、むしろ現金や株式を優先し、不動産を敬遠して相続人同士で押し付けあうというような場面も増えてきています。

 

こうした状況で相続したマンション住戸が、管理上でもやっかいな問題を引き起こしています。

相続人がマンション住戸を相続したことを管理組合に連絡しないケースが増えているのです。

 

親のマンションを相続したものの、部屋内のかたずけだけでも一苦労。住戸は傷みが激しく、賃貸するとしても相当額のリニューアル費用がかかる。ただでさえ欲しくもなかった住戸を無理やり相続した相続人は、その事実を告げずに放置し、結果として管理費・修繕積立金が滞納となるのです。

 

管理組合としては、相続の事実が確認できれば、当然に相続人に対して管理費・修繕積立金の請求を行うのですが、相続人が外国住まいであったり、相続人が複数存在するというケースでは、なかなか思うように徴収できないようです。

 

管理費の滞納が続くと、最終的には、マンションを差し押さえ、競売等にかけて滞納分を回収していくというのが法律上の手続きになります。

 

しかし、かつては流通市場に売りに出せば確実に売却できたマンションも、立地条件や築年数、設備の状況などにより全く買い手がつかないケースが増えています。競売により確実に滞納金が回収できるという保証はありません。

 

このようなマンション住戸の買い手は、滞納している管理費・修繕積立金も負担の上、物件を手に入れることになります。このような負債のついたマンション住戸は、ますます買い手が付きづらいでしょう。

 

また、さらに問題なのが、相続人がいないマンション住戸の増加です。相続人が存在しない、または全員が相続放棄をした場合、マンション管理は家庭裁判所が選定する相続財産管理人が行うことになります。

 

つまり、管理費・修繕積立金の請求を相続財産管理人に対して行うことになります。通常、相続財産管理人を選定する際、東京地裁などの場合ですと、100万円ほどの予納金を納付しなければなりません。

 

相続財産から、あらかじめ差し引ければよいのですが、該当金額を引当てできない場合は、管理組合の負担となります。

 

管理費・修繕積立金の滞納が多いマンションほど老朽化が激しく、市場における流通性に欠ける物件が多くなります。そうした住戸ほど誰も相続したがらない。相続を放棄する、相続をしても住戸を放置し、管理費・修繕積立金の支払いを免れ続ける。売却しても債務全額の回収には程遠く、そもそも売却すら叶わない。こんな物件が、今後急速に増加していくことでしょう。

 

このような状況の放置は、マンションという共同体の崩壊につながり、やがては多くのマンションがスラム化への道を歩むことになりつつあります。